ぜんまい仕掛けのデジタルカメラ Hi-Visionは、60~90年前に販売されていたぜんまい式シネカメラをデジタルカメラ化するプロジェクトのVer.2です。
Ver.1は、かっこいい8mmフィルムカメラを現代によみがえらせてみたいという好奇心から制作を行い、一定の成果を得ました。
Ver.2では8mmフィルムカメラによる撮影をより楽しくリアルに体験することを通じて、8mmフィルムカメラの魅力の理解や保存活動を推進することを目的として開発を再開しました。
目的の実現のため、より多様な8mmフィルムカメラを入手して機能や設計を確認し、Ver.1ではデジタル化改造が困難と判断していた機種も幅広くデジタル化改造が可能となりました。Ver.1では不十分であった画角の再現率や連続撮影時間の制限がなくなり、実際のフィルム撮影により近い条件での撮影が可能になっています。
各種のフィルムカメラのデジタル化プロジェクトは、プロアマ問わず多くのプロジェクトがありますが、プロの機材は高価すぎ、アマチュアの機材は技術的な課題が多く残っていました。
そのようななか、Raspberry Pi Zero2というコンパクトかつパワフルなSBCが発売されIMX219という高性能なイメージセンサを自由に扱うことができるようになったという技術的なブレークスルーにより、Ver.1の開発が実現しました。
Ver.2では新たに発売されたIMX708というイメージセンサを適用することで、さらなる高機能化を実現しています。
今だからこそ実現した、最新のコンシューマ向けITデバイスを活用したぜんまい駆動する不思議なムービーカメラの魅力を感じてください。
# 2. Ver.1からの変更点 Ver.1では、フィルムカセット式の8mmシネカメラ用にデジタル撮影カセットを制作してデジタル化を実現しました。ただし、デジタル化改造という主目標は達成できたものの性能は十分とは言えませんでした。 Ver.2では、Ver.1で得たノウハウをベースにしつつ基本設計をゼロから見直し、より幅広い機種をデジタル化出来る技術を実装しています。 カメラ本体の改造を可逆改造にとどめたVer.2.aと、不可逆改造を加えてデジタル撮影機能を強化したVer.2.bがあります。 主な性能比較を以下に示します。 ||Ver.1|Ver.2.a(開発中仕様)|Ver2.b| |-|-|-|-| |最大フレームレート|max 16|max 32|30固定| |解像度|640 x 480|640 x 480|1920 x 1080| |画角※|31%|110%|110%| |連続録画時間|6sec|6sec以上|ぜんまい駆動最大時間| |不可逆改造|未達成|達成|未達成| ※画角はdouble 8フィルムのイメージサイズ比 ※Ver.2.aはソフト開発中のため変更の可能性有 ## 2-1. フレームレート Ver.1ではイメージセンサ側は90FPSでの撮影を行い、カメラのシャッタータイミングに合わせた画像を取得していました。 この方法ではカメラ側のフレームレートは16FPSまでしかあげられませんでした。 Ver.2.aではシャッターシンクロのロジックを見直し、最大32FPSまで対応可能になりました。 Ver.2.bでは30FPS固定での撮影となります。 ## 2-2. 解像度および画角 Ver.1ではイメージセンサにIMX219を使用していました。 シャッター検出信号とシンクロする為、イメージセンサの使用ピクセルを640×480に抑える必要があり、フィルムサイズの31%の領域でしかイメージをキャプチャできていませんでした。 Ver.2.aではイメージセンサを新発売された大型のIMX708に変更しました。これによりdobule8のフィルムサイズを100%カバーできるようになりました。 また、センサの制御ソフトを新たに作り直しました。新しいソフトでは、カメラのフレームレートを動的に変更してシャッター検出信号とシンクロし、画角を広く保持し、画像解像度も高い状態で撮影しています。  Ver.2.bでは、カメラのシャッター膜を除去し、IMX708の性能をフルに利用した撮影を可能にしています。 シャッター速度やシャッターのON/OFFはシャッター機構から検出しているため、カメラの操作性はV.1.0と変わりありません。 ただしカメラ本体へは不可逆な改造を必要とするため、レンズの無いカメラボディにのみに行える改造方法です。 ## 2-3. 連続録画時間 Ver.1ではメモリ容量の制限で最大6secでしたが、画像の圧縮に対応し最長30sec以上の撮影に対応しました。 ## 2-4. 不可逆改造 Ver.1では、フィルム送り部に不可逆改造を施す必要がありましたが、Ver.2.aではカメラの保存を目的として可逆改造のみ加えています。ただしシャッタータイミングとの同期が完全でないため、Ver.2.bではシャッター膜を除去する不可逆改造を行い、撮影能力を向上させています。 シネカメラの保護の観点では不可逆改造は可能な限り避ける必要があるため、同期問題についてソフト面での対策も推進しています。 以下の動画でVer.2.aの制御ソフトが頑張って同期をとろうと頑張っている様子が判ります。 https://twitter.com/AirpocketRobot/status/1788941467047883049 # 3. ハードウェア Ver.2.aの制作にはBolex B-8とBolex C-8を、Ver.2.bの制作にはYashica 8とYashica 8-2T、Cinemax8を使用しました。拡張テーマとして、9.5㎜フィルムカメラであるpathe motocameraのVer.2.a改造も行いました。 ## 3-1. Bolex B-8 Bolex B-8は1953年に発売されていたスイス製のシネカメラです。黒革張りのボディと、オリジナルのレンズが特徴で、内部構造は後発カメラの参考にもされました。 後期型は露出時間の変更機能も備えています。  ## 3-2. Bolex C-8 Bolex C-8はB-8からターレット式のレンズ交換機能をオミットしたモデルです。  ## 3-3. Yashica 8 Yashica8は1957年に日本のヤシカから発売されたシネカメラです。内部構造を確認すると前述のBolex B-8を参考に設計されていることが明らかで、デジタル化部品もBolex B-8のVer.2.a改造用と大部分が共通化できました。 一部動作不良のジャンク品ボディをメンテナンスしたうえでVer.2.b改造を施しました。  ## 3-4. Yashica 8-2T Yashica 8-2TはYashica 8のマイナーチェンジモデルと思われますが、同時期に発売されていたとの情報もあり詳細は調査中です。 Yashica 8はBolex B-8(C-8)と同様のスライド式であったのに対し、8-2TはBolex L-8 と同様のプッシュボタン式になっています。フィルム室の開放機構もYashica 8 のレバーアクションからBolexシリーズと同様の回転ラッチ方式に変更されています。また、カメラ前面にYashicaのYのロゴが表示されています。 内部構造についてはフィルム送り機構が設計変更されているマイナーチェンジモデルも確認しています。  ## 3-5. Cinemax 8(二代目) Cinemax 8は初の日本製Double8シネカメラであるCinemax 8の後継モデル(モデル番号は不明)です。初代のCinemax 8にはなかった2本ターレット式のレンズ交換機能が追加されており、ファインダーレンズの画角表示も初代のパネル式からレンズへのインジケータ印刷に変更されています。 カメラ構造はBell & Howell filmoシリーズを踏襲しており、当時の人気モデルをクローンしたことがうかがえます。 pathe社は1922年にkodakとともに最初期の家庭用コンパクトシネカメラを発売しました。motocameraは1928年ごろからマイナーチェンジを繰り返しながら1940年頃まで製造されていたようです。
Bolex B-8やYashica 8 と比較しても非常にシンプルな構造で、シネカメラ技術の進化の歴史を感じることが出来ます。
9.5㎜フィルムを使用するかめらのためイメージサークルが大きく、8mmカメラ用のイメージセンサを使用すると画角は55%の再現率となります。
ハードウェアの改造ポイントはフィルム室改造、フィルムガイド改造、シャッタータイミング検出用リフレクタの設置の3点です。
フィルム室にはフィルムのスプルーを固定するためのフィルム軸やフィルム送り装置がありますが、デジタル撮影ユニットを配置する際の邪魔になるためフィルム軸を固定しているプレートを外して3Dプリントしたプレートに変更します。
フィルムガイドはフィルムのパスラインをレンズの正しい焦点距離に合わせるための部品です。イメージセンサ面を正しい位置に設置するため、フィルムガイドを再設計して3Dプリント品に変更しています。
シャッタータイミング検出用のリフレクタはカメラのシャッター駆動部に設置しています。1フレームごとに回転するフィルムコマ送り用の可動軸にリフレクタを配置し、シャッターが任意のポイントに来たタイミングをフォトリフレクタで検出できるようにします。
また、Ver.2.aはシャッター膜を除去しています。
デジタル撮影ユニットの主な構成要素はコントローラであるRaspberry Pi Zero 2W、イメージセンサ、シャッタータイミングを検出するフォトリフレクタ、電源用のリチウム電池です。
これらをフィルム室内に立体的に配置できる様、筐体を設計しユニット化しました。
また、Ver.1やVer.2の開発機ではユニバーサル基板をしようしていましたが、Ver.2にて仕様がFIXしたためPCB化しました。
ソフトはpythonとopencvで書いています。
イメージセンサの制御は判らないことが多くめちゃくちゃ苦労しています。
まだまだ思う通りに制御できておらず、さらなる改良が必要です。
随時協力者募集中です。
近頃ではアナログレコードやカセットテープで音楽を楽しんだり、少し古いデジタルカメラやフィルムカメラで撮影を楽しむ方が増えているそうです。
このプロジェクトではアナログレコードで音楽を楽しむ様に、少し古いフィルム式のシネカメラを通して動画撮影の魅力を体験します。また、その体験を通してぜんまい式シネカメラの持つ魅力を再確認し、失われつつある技術遺産を後世に残すことも目的とします。
このプロジェクトの意義をご理解いただくには、「ぜんまい式シネカメラ」の魅力を知っていただくことが必要です。まずは少しお時間をお借りしてシネカメラの歴史をご紹介します。
この記事をご覧の皆さんの中に「動画を撮影したことが無い」という方は一人もいないのではないかと思います。
携帯電話がまだガラケーだった時代、「写メ」の登場により映像記録がかつてなく身近な体験になりました。専用のカメラを持たずとも、携帯電話さえもっていればだれでもどこでも静止画や動画が撮れるようになったのです。その後スマホの登場により「撮影」の敷居はますます低くなり、生活行動の一部となりました。
https://ja.wikipedia.org/wiki/J-SH04
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%99%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%83%AB
「撮影」という体験のなかでも動画がこれほど身近なもになるまでには、「写メ」の登場以前にもビデオカメラの登場とコンパクトなシネカメラの登場という二つの革新が必要でした。
ビデオカメラの登場では、フィルムではなくデジタル素子で動画を記録できるようになり現像が不要になりました。
コンパクトなシネカメラはそれまで商業用の動画撮影を目的としていたフィルム式シネカメラを家庭でも手軽に使うために開発されました。
世界初のシネカメラが作られたのは1888年のことです。
1895年には商業用のシネマトグラフが発表され、一般の人々が動画に接し始めました。その後1922年にはkodak社(米)から16㎜フィルムを使うフィルムカメラ「cine codak」、pathe社(仏)からは9.5㎜フィルムを用いた「pathe baby」といういうコンパクトなシネカメラが発売され民生用シネカメラの市場が生まれます。
これらのカメラの登場で、見ることしかできなかった動画が自ら撮影することが出来るものになりました。
kodak社はcine-kodak発売に先駆けて1912年にはヴェスト・ポケット・コダックという廉価な静止画カメラを発売しており、フィルム市場を急速に拡大させていました。
kodak社が民生用シネカメラを開発した理由はフィルム市場のさらなる拡大を狙ったものでもありました。
cine codakやpathe babyを皮切りに、Bell & Howell社(米)、Bolex社(スイス)が16㎜や9.5㎜フィルムを使用したコンパクトなシネカメラを開発し市場に参入します。その後も多くの企業がシネカメラを開発・販売しました。
1940年頃になると、16㎜フィルムの半分の幅を使って往復撮影するdouble 8方式を採用したカメラが開発されて急速に普及します。
double 8方式のカメラでは、フィルムの片側に撮影したのち、フィルムを反転させて再度撮影することで同じ長さのフィルムに約4倍の時間の動画を記録できました。
また、従来のシネカメラは手回しハンドルでフィルムを送っていましたが、この頃になるとゼンマイ駆動方式をとる機種が一般的になってきました。
1955年、瓜生精機から日本初のdouble 8シネカメラであるcinemax 8、続いてエルモ社のcine elmo A-8が発売されました。その後もヤシカ、キヤノン、アルコ写真工業、三協精機、富士フイルムなど多くの企業がdouble 8 フィルムカメラの製造を開始します。
ゼンマイ駆動式double 8カメラの登場後も、シネカメラは露出計の追加、ズームレンズの実装、モーター駆動への変化、フィルム規格の変更、音声同時録音機能の追加などの進化を経ます。
一方で、1965年には早くも世界初のビデオカメラであるポータパックがSonyから発売されました。
ビデオカメラはフィルムの現像が不要という手軽さからフィルムカメラの代替として普及し、1980年代にはシネカメラを完全に駆逐することになります。
ぜんまい式シネカメラは、民生用シネカメラが普及期に入る前の1930年代から1960年ごろまでに活躍したカメラです。
小さな筐体の中にシャッター駆動のためのぜんまい動力と定速駆動機構を備え、ファインダーと撮影用レンズの2系統の光学系を持っています。
多くのモデルは鋳物製のボディと金属製歯車が用いられてずっしりとした重量感が特徴で、シャッター駆動時のぜんまいや歯車の振動がしっかりとした手ごたえとして感じられるのが第一の魅力です。
また、高速なレンズ交換を可能にするため採用されていたターレット式レンズ交換機能も大きな魅力です。
撮影に関するセッティングはすべて手動で行う必要があります。
画角に合わせてレンズを選び、フレームレートと環境の明るさ、フィルム感度から絞りを決め、距離に合わせてフォーカスを定めてシャッターを切ります。プレビューは無いため、撮影してみなくてはどのように撮れたか判りません。確認できるのは現像した後です。
撮影自体がとても難しいカメラですが、「撮影」という行為がどのようなものであるか体感するうえでこれ以上ないカメラと言えるでしょう。
今日、ぜんまい式シネカメラで使用するフィルムを入手・現像するのは難しく、撮影に実用されている機材はほとんどありません。ごく少数が撮影に使われているほかは、当時の所有者が死蔵しているか一部のコレクターが所有しているのみとなりました。
そのようななかオールドレンズブームにより、シネカメラ用のレンズが一部の好事家によりデジタルスチルカメラの撮影に使われる様になりました。
今日では、シネカメラのレンズがスチルカメラ用に流通し、レンズの無くなったシネカメラ本体が二束三文で販売されています。
ただでさえカメラとしての利用価値をなくしていたシネカメラからレンズが外され、行き場を失ったシネカメラボディが急速に消えていく恐れがあります。
このプロジェクトが目的とするのは次の3点です。
①ぜんまい式シネカメラの魅力を伝え、技術遺産としての価値を周知する
②①を通してぜんまい式シネカメラの保護、保存を支援する
③ぜんまい式シネカメラをデジタル化することで、①、②を推進する
この3点を満足するために、デジタル化改造のための指針を次のように定めます。
i).オリジナルの光学系を利用する。
ii).オリジナルの操作系を利用する。
iii).ボディへの改造は(iv)の場合を除き可逆改造とする。
iv).ボディ本体のダメージが大きい、もしくはレンズが無いボディのみ最小限の不可逆改造を可とする。
i)、ii)はぜんまい式シネカメラの魅力を失わないため、iii)、iv)はこのプロジェクト自体が現存するシネカメラを棄損しないための指針です。
このプロジェクトはマウザーアワード2024にエントリーします。 過去のプロジェクトのノウハウを利用しつつ、現時点で入手可能な部品と技術を用いてハードソフト面をゼロベースで再設計しています。 「受賞歴のない作品であること」との応募規約は満足していると考えていますが、「Ver.1との変更点」の項の内容にてご判断いただければ幸いです。
シャッターの動作をフォトリフレクタで検出し、ディジタル撮影ユニットのイメージキャプチャートリガーとします。 レンズを除去したイメージセンサをフィルムパス面に配置することで、オリジナルの光学系でえられた画像をキャプチャします。